<髪の毛を弄る>
南方の地に入ってから、約半月。 このあたりは火性の者にとって棲みやすいので、元々の気象と相まって、年中気温が高い地域の1つだ。 自分は別にどうとでもできるが、連れの方はそうはいかなかった。 魔力による中和はおろか、体温調節もままならないのだ。さらにこいつの髪は見た目こそ冷たそうだが、あくまで見た目。もういくらかで地面に届きそうなほど長い銀髪は、さぞかし暑苦しいだろう。 街で宿を取ると、スパーダは部屋のベッドにぱたりと倒れこんだ。 部屋には冷気を生み出す魔石が設置されているので、充分に涼しい。しばらくはここで休養を取るだろう。 倒れこんでからぴくりとも動かぬ子供に、苦笑が漏れる。 さらさらと広がる髪を見ていて、ふと思いつく。 「スパーダ。ちょっと出かけてくる。すぐ戻るから、待ってろよ?」 んー、とくぐもった返事が返ってくる。 そんなに暑いのなら、あとで水風呂にでも放り込んでやろうかと思った。
目的の物を売っている店は意外と近くで見つかったが、選ぶのに少々時間がかかってしまった。 店の女主人からは、彼女にプレゼントかと茶化された。 半分はずれで半分当たりだと言ったら、『なんだ。彼氏にかい。』と返された。冗談でもよせ、と笑顔で軽く殺気を放ったら、すぐに黙ったので良しとする。 「スパーダ? 戻ったぞ。」 部屋の扉を開けると、今度は仰向けで大の字になってのびていた。微妙に位置が変わっているのは、シーツに熱が移ってしまったからだろう。 「…おかえり〜…。」 出て行く時よりも力の抜けた返事。もしかして寝かかってるんじゃないだろうか。 「もう寝るのか?」 「…ご飯食べてお風呂入ってから…。」 言いながらころりと寝返りをうつ。髪が絡まるらしく、頭を少し上げて、まとわりついた髪をよけている。やっぱり邪魔ならしい。 「スパーダ、ちょっと起きろ。」 「ん〜…。」 緩慢な動作で、ゆるりと上半身を起こすと、つられて揺らめいた銀糸が、さらさらと集まる。 「大人しくしてろよー。」 後ろ側に回り込み、髪を一房取る。 「…何するの?」 「終わってからのお楽しみ。」 買ってきた櫛を取り出し、手の中の髪を梳く。もともと癖の無い髪質なので、歯に絡まることはあまりない。少しずつ、毛先から絡まりをほぐしていく。 スパーダはいきなりのことに驚いたのか、最初に多少身じろぎはしたが、あとは大人しくされるがままになっている。ちらりと顔を覗いてみると、気持ちよさそうに目を閉じていた。まるで猫かなにかのようだ。 一通り梳き終えると、髪全体を3つの房に分ける。それぞれの付け根のあたりを、これまた買ってきた紐でゆるく結ぶ。これに別の青い飾り紐を交えながら、俗に言う三つ編にゆるく編み上げる。 長い髪なので時間はかかったが、ちゃんとした三つ編になっている。我ながら、よく出来ていると思う。 房の元の方を止めていた紐を解き、長めに残した三つ編の尻尾を結ぶ。飾り紐も結んで、髪いじりが終わった。 「…ん。これでちったぁマシだろ。」 「わー…。ベオって器用だねえ。どこで習ったの?」 「初めてだぜ?」 「…初めて、で、これ?」 「三つ編がどんなもんかわかってればできるだろ。そんなややこしいもんじゃねえんだし。」 確かに三つ編自体はややこしくはないが、初めてでここまで綺麗に結べるとは限らないだろう。 ベオウルフは大雑把に見えて、意外と器用だった。ただ、本人に自覚はないが。 「………この紐、なんか冷たいね。」 「冷却作用のある紐だよ。紐の内側に、そういう術式が書き込んであるんだ。」 「へえ〜…。…ありがとう、ベオウルフ!」 「どういたしまして。じゃ、お前が元気になったところで、メシ食いに行くか。」 「うん!」 スパーダがベッドから降り、いつもの定位置――自分の右隣――へと駆け寄る。 いつもは流れてついてくる銀糸は、背中で弾むように揺れていた。
------------- 俺が欲しいですその飾り紐。 暑いんだよ鬱陶しいんだよ切りたくないんだよ!
とにかく思いつくが侭に書き殴ってみた。 ベオと子スパーダのぶらり旅・ある日の風景。 うちのベオは器用です。多分やる気さえあれば、その飾り紐さえ作れるんじゃなかろうか。 この後ベオはスパーダの髪をよくいじるようになります。自分からだったりねだられてだったり。 『ラブラブな2人に』ですが、彼らがカプとしてまとまることは永遠に来ないですから。 家族愛とか同族愛とかそんな感じ。 気が向いたら消します。
配布元:リライト |
|