久しぶりに人界に来てみると、人は天と魔の存在を忘れていた。
天使はもとより軽々しく地上に降りることはなく、魔界は封印されて2千年余り。 1世紀どころか、その半分すらまともに生きられない『人間』のほとんどは、いつのまにか魔の存在を信じなくなった。 ほんの一握りの者達だけが真実を伝え信じ続け、いつの日か再び訪れる魔を退ける術を磨き続けている。 また時折、魔に遭遇して存在を知る者もいる。 ある者はそのまま生命を絶たれ、運良く生き延びようとも、その恐怖に心を病む。 稀に魔に魅入られ、より深い場所へ堕ちる者もいる。 もっとも、自分はそういった輩のおかげで、今人界にいるわけなのだが。
今の人の有り様を見て、嘲るような笑みを僅かに浮かべる。 神は人を守り、魔を退ける。 それなのに、人は神への信仰を忘れ、その存在をも否定するものさえいる。 けれども、天に追われた魔の者たちは違う。 神への信仰心など欠片もないが、その存在を忘れることはない。 その存在を信じているのではなく、ただ、知っているのだ。 生れ落ちた、その瞬間から。 まったく、皮肉なものだ。 人よりも悪魔の方が、神を信じているとは。
…あれは、なんと思っていたのだろうか。 神を忘れ、魔を忘れ、異質を恐れ虐げる者達の事を。 |
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