03:泣きたくても泣けない (どれだけ望もうとも泣けないのが悪魔。サン・ジェルマンとの出会い。)
悪魔、という生き物は、酷く不可思議なものだった。 肉を持つもの・持たないもの。 力のあるもの・力のないもの。 知能の高いもの・低いもの。 人を喰らうもの・魂を喰らうもの。 千差万別。 相応の知能があるものならば、それなりの自我と意思を持ち、本能に従って生きる。理性と呼べるものを持つのは、一握りの高位悪魔のみだ。 ――――ただ。 そんな高位悪魔であろうと、単細胞生物ほどの本能を持たない最低位であろうと、絶対の共通事項がある。 それは彼らが悪魔である証明であり、悪魔たらしめる絶対だった。
―――Devils haven't heart.(悪魔は心を持たない。)
怒りや喜び、笑いなどの感情はあれど、悲しみの心を悪魔は持たない。 故にある者達はこういうのだ。
Dvil's never cry―――.(悪魔は、泣かない―――。)
目を覚ましたベオウルフは、実は自分は人間で、今までのは全て己という人間の子供の、想像力豊かな夢だったのではないかと思ってしまった。 己の記憶が正しければ、確か自分はどこぞの森で眠ったはずである。少なくとも、こんな馬鹿でかい天蓋付きの豪奢な寝台で目覚めるような要因は、何一つとしてなかったはずだ。それともこれは感覚にまで影響する幻なのだろうか。 傍目から見れば、ベオウルフは黙って自分の身の安全と状態の確認をしていたが、頭の中は軽く混乱していた。 これが見えるまま感じるままの現実だとすれば、とりあえず自分は健康無傷で、特に動きを制限させられていることは無かった。―――――全裸という事実を除いては。
(違和感はないので、今のところ貞操は無事と考えていい。ただこの先もそうとは限らないし。もしかして事に及ぶ前の短い空白時間に目ェ覚ましたのか俺。だったら嫌だなー。ショタって時点で充分アブノーマルだけど、それ以上に危ない嗜好だったら最悪じゃねーか。いやでも待てよ。部分蒐集家(パーツコレクター)だったら髪だけですむんじゃ――いや、だったらその場で切り取ってってるはずだ。瞳も見たかったとか? じゃなかったら最低でも剥製マニアか人形マニア、最悪サディスト? そんなん適当にMなの見つけて発散しろよー。) そんな酷いことを考えながら、ベオウルフは部屋の中を物色していた。 ここがどこなのか分かる手がかりと、自分が着れる服を手に入れるためである。 引き出しやら扉やら、開けれるものは全て開けた。 その結果。 「何ッにもねえ…。」 引き出しの中もクローゼットの中も、どこにも何も入っていない。正しく空き部屋だった。 暇になった。 ここでまた再び寝る気になど間違ってもなれないし、かといって、することもできることもない。 窓及び廊下へ出ると思われる扉には、予想通り鍵がかかっており、ご丁寧に物理無効効果を持っていた。つまり蹴破るのは無理。 |
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