「…なんの処置でしょうか。」 「金持ち私立ってやつは、色々と面倒な事をしてるんですよ。バレない為にやるんですから、文句言わずについてらっしゃい。」 質問はマッドドクターによって簡単に返ってきた。 「ああ、その前にこれ飲んでください。ちょっと危険な薬も使わなきゃいけないんで、それの中和剤です。痛い目みたいなら別に構いはしませんが。」 渡されたのは、薄い桃色の液体が入った透明な小瓶。 蓋を開けても、香りらしい香りはしない。味は飲んでみないとわからないので、そのまま一息に飲み干す。ほんの少し甘味があり、薄荷のような爽かさが口の中に残っていた。 このサド医者が持っているには、かなりまともな薬だ。まとも過ぎていっそ怖い。何か裏があるんじゃないかと疑ってしまうのは、1度でもこの男に治療を受けた事がある者ならば当然の反応だろう。 トットリは受け取ってすぐ、なんのためらいも逡巡もなく一気のみしていた。だから自分も飲んだわけだが。 「それじゃ、私のラボに移動しましょうか。任務の詳しい内容が書いてある書類は、ティラミスが持ってきてくれるそうですから。」 薬を飲んだ事を見届けると、高松はさっさと部屋から出ていってしまう。アラシヤマ達も、総帥に敬礼してからドクターに続いて退室した。
ドクターのラボまであと少し、というところで、アラシヤマは体の異常を感じた。 体が、重い。 次いでくらりと一瞬意識が遠のいた。 原因としてまず思い当たるのは、先ほど飲んだあの薬。薬には副作用として、催眠効果のあるものが多い。しかもあの医者は命に関るものでもない限り、否関わるとしても、薬に関する注意点を患者に言ったりしない。 確かめようと前を行くドクターを呼ぼうとした時、後ろから腕を引かれた。 反射的に振りかえると、どこか苦しそうな顔のトットリがこちらを見ていた。言葉はなかったが、お前もか、と目が言っていた。 間違いない。あの薬だ。 真意を正そうと再び前方を見やる。ドクターは先程よりもいくらか先で立ち止まり、こっちを見ていた。 視線が合い、ドクターが不敵に笑った。 その笑いがひどく神経を逆なでし、その顔を一発殴ろうと思ったと同時に、トットリ共々意識を失った。 |
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